『清流「妙音沢」~新座のオアシスを求めて~』

立教大学 観光学部交流文化学科 2年
松田 一馬

 

 

 

 新座市を流れる黒目川を下っていくと、関越の高架をくぐったあたりから右手にうっそうとした森が広がっている。住宅街の中にポツンと取り残されたかのように、そのあたり一帯だけが雑木林になっている。一歩踏み入れると、すっと周囲の音が消え、木々の音や鳥のさえずりのみが聞こえてくる。ざわざわとなる音は、森に引き込まれるような不思議な感覚になる。そんな木々の音をかき分けて進んでいくと木道が現れる。2013年に、この森を保全する目的で設置され、周囲の木々と相まって一層人々を森へと誘う。ふと耳を澄ますと、さらさらと流れる水の音が聞こえてくる。森の最深部、目の前には、高さ20メートルほどの崖がそびえたっている。その、ふもとを見ると、こんこんと水が湧きだしている。先ほどの水音の正体はこの湧水で、沢をなし、黒目川にそそいでいる。100メートルほどしかない小さな沢であるが、その水の透明度には目を奪われる。この湧水は、「妙音沢」と呼ばれ、埼玉県内でも屈指の水質を誇っている。それが評価され、2008年に環境省の定める「平成の名水百選」に選ばれている。埼玉県内に四か所、東京都に関しては一か所しかないことを考えると、その水の美しさが分かる。この清流は、様々な生命をはぐくんでいる。植物では、この地の固有種であるミョウオンサワハタザクラが有名で、2014年に発見された新種の桜だ。そのほかにもカタクリやイチリンソウなど、四季折々の草花を見ることができる。また、きれいな水にしか生息することができないサワガニやプラナリア、ヘビトンボなど貴重な動植物も数多く生息している。夏には近所の少年少女たちが、カブトムシを取りに集まってくる。この、妙音沢は、とても小さな沢なので、その流れは穏やかである。そのため、子供たちはよく川遊びをしにやってくる。水はとても冷たくひんやりとしていて、その透明度の高さ故、川底の小石もはっきりと見える。私自身、新座市の隣の清瀬市に住んでおり、妙音沢には何度も訪れている。この妙音沢は、訪れるたび違った表情を見せる。生い茂る木々は、風に揺られるたび、光のカーテンを織りなし、流れる水をキラキラと照らしている。また雨の日には、雨に打たれる葉の音、雨が水面に落ちる音、沢の流れの音など、様々な音が混ざり合って、不思議な旋律を奏でる。また、この妙音沢には、大沢と小沢があるが、名前の通り大きい沢と小さい沢のことである。皆、湧水量も多く流れも大きな大沢に注目しがちだが、私は小沢のほうに注目してもらいたい。大沢は、崖の下、岩の間から地下水が流れ出す様子を見ることができるのだが、小沢は崖から直にしみだしている様子を見ることができる。コケに覆われた崖から水が染み出す様子は東京近郊ではあまり見ることができず、ぽたぽたと落ちる美しいしずくは、いつまでも眺めていられそうな気がしてくる。この小さな流れが、沢をなして黒目川にそそぎ、荒川を経て東京湾にそそぐと考えると、圧巻である。最後に、この沢がなぜ「妙音沢」と呼ばれるようになったかを紹介したい。今から三百年ほど前、この地に盲人の子供がいた。彼は小さいころから琵琶がうまく、勉強にも熱心だった。また、信仰心があつく、毎日お経を唱えていた。そして彼は、盲人最高の地位である検校職に就くに至った。ある日、彼の夢に美しい女性が現れ、「あなたに琵琶を教えてあげましょう。崖下の沢に来るように。」と告げられました。翌日、沢へ向かうと、いつしか眠くなってしまい、沢のほとりで眠ってしまった。その時、沢の上にきらりと光が輝き、弁才天様が姿を現した。「あなたは、日頃から信仰があつく、とても関心である。私の琵琶の秘曲を教えよう。」といい。しばらく琵琶をお弾きになった。その音色はこの上なく美しく、弾き終えた弁才天様はいつの間にか消えていた。目を覚ました検校は泣いて喜び、その後ますます琵琶に励みました。このことから、この沢は「妙なる音の沢」妙音沢と呼ばれるようになったのだ。こんな伝説も残る「妙音沢」。東京からのアクセスも良く、何よりここでしか見られない貴重な自然と触れ合えるスポットである。皆さんも、都会を離れて、癒しを求めに、ぜひ訪れてみてはどうだろうか。