「新座で味わう世界一」

立教大学 観光学部交流文化学科 2年  田中 萌


 世界最大の卵を答えられる人は何人いるだろうか。

 そう。あれは確か3年前の秋だった。初めてあの場所を知ったのは。

 3年前の秋、私は立教大学のオープンキャンパスへ訪れた。「ただいまから風船をお配りします。」大学の文化祭だとは思えないアナウンスに耳を疑ったことを今でも鮮明に覚えている。驚きながらも平然を装い歩いていた最中。ゴーン。頭に樽が落ちてきたかのように衝撃を受けた。模擬店に書かれた「ダチョウ」という文字に。「え。」思わず声が漏れるまさか学園祭にダチョウ牧場の模擬店があるなんて誰が思うのだろうか。その模擬店をみて駆け寄らない人はいるのだろうか。いや、周りを見るとここまで興味を持っているのは私だけだ。オカメインコを飼っている私にとって、鳥は一番好きな動物である。あぁ。なんと魅力的な響き。透明な糸に引っ張られるようにしてお店の前に立った。まず、最初に目に飛び込んできたのは大きくて白い置物。「それ」を凝視する私。そんな私にお店のおじさんがにこやかに話しかけてきた。

「それ、ダチョウの卵。世界で一番大きい卵だよ。」

「世界一。すごい…。」

 動物大好き。と顔に書いてあるようなおじさん。少し談笑し、ダチョウの卵で作ったというクッキーを2枚買い帰路についた。

 ダチョウの卵っぽさはわからなかったが、サクッと口当たりの軽いどこか懐かしい気持ちになるクッキーを頬ばりながら、あの模擬店のことが頭の中を占領していた。あまりにも気になる。思い立ったら吉日。実際に行ってみることにした。

 その屋台を出していたのは、「並木屋」というダチョウ牧場であった。並木屋は、朝霞台駅からバスで約20分。そこから徒歩で10分弱の場所にある。向かう途中、本当に牧場などあるのか、と不安が募る。なぜなら、ダチョウがいるとは思えない住宅街がそこには広がっているからだ。

 じゃりじゃりじゃり。砂利道を歩く足跡はまるで私の高鳴る鼓動のようである。

 そしてついにその時は訪れた。熱いまなざしを感じて顔を上げるとそこにいた。沢山のダチョウが。2mという大きな体からは想像できないほど小さな顔。その小さな顔には愛らしい真ん丸な目。そのまなざしで見つめられたら何でも買ってしまいそうだ。いや、本当に餌を購入した。しかし、餌を挙げた途端愛くるしい表情は一変。怒り狂ったように餌を食べ始める。その迫力に思わず、一歩下がった。

 この時は利用しなかったが、並木屋にはウサギ小屋もバーベキュー施設もある。過度な外出がはばかられる状況に、まさに最高の場所ではないか。もちろん、お土産屋さんは、ダチョウの卵サブレも購入可能だ。本物のダチョウの卵のだってある。その大きさは鶏の卵の約30倍。迫力満点だ。さすが世界一である。

 昔から何度も通った場所。初めて訪れたはずなのに。そんな感覚になるのは、作りこみすぎていない、ありのままの牧場であるからだろう。目を閉じれば鼻を通り抜ける野生の香り、耳を吹きぬける風の音。日々の悩みともおさらばだ。

 4年前、オープンキャンパスに行って良かった。憧れだった大学は、未来への目標と素敵な場所を教えてくれた。