「地下道に咲く花」

立教大学 観光学部観光学科 3年  坂田 有咲


 地下道といえば、あなたはどのようなイメージを思い浮かべるだろうか?殺風景で薄暗い空間にひんやりとした風が吹き、ゾワっとするような少し不気味な雰囲気を漂わせる。地上から地下に流れてくるその風はサワサワとかすかな音をたて、まるで見えない幽霊が地下道を通る人々を煽っているかのようにも感じるだろう。考えただけでも少し恐ろしい。しかしそんな私のイメージも、あの地下道に出会ってからガラリと変化した。


 埼玉県新座市にある志木駅のすぐ近くにあるその地下道に出会ったのは、私がこの街で1人暮らしを始めた大学1年生の4月である。まだ引っ越して間もなく慣れない土地であったため、大学までの通学路を携帯電話のマップを開きながら歩いて通学していた。立教大学は志木駅の南口側だが私の家は反対側に位置していたため、線路を越えるために私はその地下道を通らなければならなかった。「いやだなあ。1人だし、地下道ってちょっと怖いなあ。」そう思っていたものの、遠回りをするのも面倒くさく感じ、意を決してその地下道を通ることにした。


 階段を降りていくと、80メートルほどの道がまっすぐ続いていた。少し古いのか、設置されている電灯の明かりは所々チカチカと点滅し、冷たい風が私の肌に触れ、やはりイメージどおり最初は少し不気味に感じた。

早くこの地下道を抜けようと思い歩き始めたが、地下道を進むうちにいつの間にか私の気持ちは明るくなっていた。そこには、地域の中学生が描いた絵が壁に何枚も飾られていたのだ。アジサイやヒガンバナなど様々な花の壁画が薄暗い地下道を明るく華やかにし、地下道を進むにつれて私の心をわくわくさせていった。

そしていつの間にか、薄暗く不気味な地下道のイメージは払拭されていた。飾られている壁画はどれも決してすごく上手な作品とは言えないが、その壁画には上手さ以上に価値のある描いた人達のあたたかさがこもっていて、地下道を通る人々を優しく包み込み守ってくれているようであった。特にヒマワリが描かれた壁画を私は気に入った。何本ものヒマワリが青空の下でまっすぐ立ち並び、元気に咲いているその作品は、始まったばかりの大学生活を応援し、パワーを与えてくれているかのようだった。

日光の届かない地下道には絶対に咲くはずがない花があたかもそこに咲いているかのように鮮やかに存在し、地下道の終わりに辿り着いた時には爽やかな風がヒューっと吹き込み、明るく爽快な気持ちに変わっていた。優しさやあたたかさが溢れる素敵な街であることを知り、そんなこの街で新生活を始めていることが私は嬉しくなった。それからは、この地下道を毎日通学路として利用するようになった。新座市は本当に素敵な街だ。ぜひ新座市を訪れた際にはこの地下道を訪れ、私と同じように新座市の優しさやあたたかさを感じてほしい。